2023年12月14日(金)
タイ語の文芸小説、翻訳本をkindle出版します。著者のジェーン・ベヤジバ氏はタイ語のハリーポッター訳者でもある人気作家です。訳者はタイ在住中この物語に出会い感銘を受け、著書に面会に行き、日本語訳の快諾をいただきました。
小説の舞台は、バンコクのどこにでもありそうな狭い路地。この通りに住む人々は、私たち誰もがそうであるように、みな悲しい過去や少しの希望、様々な事情を抱えながらも、それぞれの人生を懸命に生きている。
主な登場人物は七人と一匹の犬。謎に包まれた高齢のカップルは他の人々には目もくれず、二人きりの世界に生き、また、がんこな男性は酒浸りで孤独だ。結婚を夢見るモデルの女の子は仏教を学んだ気のいい青年と恋におち、マッサージの仕事をしている彼女の母親は、奇妙でキュートな外人男性から想いを寄せられている。そして年取った大きなおかまは心に傷を負いながらも新しい恋人との恋愛に夢中だ。
この物語では、犬でさえも自分自身の役割をきちんとまっすぐに受け止めながら、懸命に生きている。そして物語が進むうち、通りの人々の人生が、時を超え、少しずつ交差する。
瑞々しい文体と全体に漂う力強さ、そして読む手が止まらなくなる見事なストーリー展開。繊細ながらも楽しくせつなく人生の本質を描いた「824」は、私たちの心を激しく揺さぶる。
訳者である私は、5年間にわたるタイ在住時、どんなときにもユーモアと笑顔を忘れず、明るく前向きで、しかも他人にはとことん優しい人々に囲まれて毎日とても幸せだった。住むうちにどんどんタイの人々や気候風土が好きになり、この国をもっと深く知りたくて、様々な小説を読んだ。子どもの頃から小説をたくさん読んできた私は、世の中には小説でしか表現できないことがあると信じている。そんなときジェーン氏のこの作品に出会った。毎日辞書を片手にページをめくるのが楽しく、また感動に胸が震えるのを抑えられなかった。そして次第にこの作品を自分で翻訳し、広く日本の人々にも読んでもらいたいと願うようになる。実はこのとき私は、乳がんを患っており、海外での孤独な治療の日々もこの作品によってずいぶん励まされた。
ところでタイは海外旅行者、駐在者にとても人気がある。年中暑くて気持ちがいい。そしてそれによってもたらされるふんだんな美味しい食べ物、だからこそのんきで気さくなホスピタリティにあふれたタイの人々。そのどれもがタイの魅力となり訪れる私たちの心をとらえる。
「824」でも、一貫して流れているのは、この、何があっても大丈夫、なんとかなるさ(タイ人はタイ語で大丈夫という意味の、マイペンライという言葉をよく口にする)というタイの人々の穏やかなあたたかさだ。
著者のジェーン氏は、生まれつき手足に不自由があり車椅子生活だが、海外で英語を学び、タイに帰国した後、翻訳エージェントを設立。自らも翻訳者として「ハリーポッター」のタイ語版をヒットさせた。「824」を読み感動した私が、是非とも面会をしたいと申し出、感想を述べたとき、ご自宅でジェーン氏は「私は自分自身が自由に動けないので、その分、とてもよく周囲の人々を観察しているのかもしれません。公園などで行き過ぎる人を眺めながら、その人生の背景を思い描くこともしょっちゅうあるんですよ」と笑顔で答えてくれた。
ジェーン氏の優しいまなざしに見守れられリードされ、登場人物は「824」の中でいきいきとそれぞれの人生を生きる。
どんなときにもくじけず、笑顔でいること。まっすぐ日々に向き合うこと。愛する気持ちを大切にすること。時間が明るい明日を連れて来てくれること。それを胸に今日も歩こう。
さぁ、新しい明日が始まる。
この小説が、読んでくださったひとりひとりの、かけがえのない人生をさらに輝かせる一助になることを祈ってやまない。
【著者】
Jane Vejjajiva/1963年1月27日 ロンドン生まれ)、タイの第27代首相アピシット・ウェーチャチーワ前首相(2008年~2011年)の実姉
略歴 : 3歳までロンドンで過ごしバンコクに戻る。タイのタマサート大学でフランス文学の学士号を取得後、ブリュッセルに留学し、英語の翻訳と通訳を学ぶ。生まれたときから脳性麻痺を患い、現在なお車椅子生活を余儀なくされている。
帰国後、著作権代理店を経営する他、自らも、『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』などのタイ語翻訳を行う。また、小説家としても活躍し、代表作『カティの幸福』は、9言語に翻訳され、映画もヒットするなどタイの国民に広く親しまれている。1999年に芸術文化勲章シュヴァリエ、2006年に東南アジア文学賞を受賞。
【訳者】
蛭川 薫(ひるかわ かおる)/札幌市生まれ
略歴 : 広告代理店勤務後、単身渡米。帰国後、フリーライターとして、各企業のパンフレット、PR誌等のライティングを数多く手がける。またバックパックを背負い、世界各国を旅し、
旅行記なども執筆。台湾・タイに通算10年間暮らし、異国の文化を身近に触れる。
帰国後はフリーライターの傍ら、福祉職、事務職、海外における販売アシスタントなど
を行う。
著書 : 『旅のおくりもの ムハマド君とナムナマ』/1991年、砂書房(著者:高橋 薫)
【表紙イラスト&デザイン】
山岡真弓
タイ語の文芸小説、翻訳本をkindle出版します。著者のジェーン・ベヤジバ氏はタイ語のハリーポッター訳者でもある人気作家です。訳者はタイ在住中この物語に出会い感銘を受け、著書に面会に行き、日本語訳の快諾をいただきました。
小説の舞台は、バンコクのどこにでもありそうな狭い路地。この通りに住む人々は、私たち誰もがそうであるように、みな悲しい過去や少しの希望、様々な事情を抱えながらも、それぞれの人生を懸命に生きている。
主な登場人物は七人と一匹の犬。謎に包まれた高齢のカップルは他の人々には目もくれず、二人きりの世界に生き、また、がんこな男性は酒浸りで孤独だ。結婚を夢見るモデルの女の子は仏教を学んだ気のいい青年と恋におち、マッサージの仕事をしている彼女の母親は、奇妙でキュートな外人男性から想いを寄せられている。そして年取った大きなおかまは心に傷を負いながらも新しい恋人との恋愛に夢中だ。
この物語では、犬でさえも自分自身の役割をきちんとまっすぐに受け止めながら、懸命に生きている。そして物語が進むうち、通りの人々の人生が、時を超え、少しずつ交差する。
瑞々しい文体と全体に漂う力強さ、そして読む手が止まらなくなる見事なストーリー展開。繊細ながらも楽しくせつなく人生の本質を描いた「824」は、私たちの心を激しく揺さぶる。
訳者である私は、5年間にわたるタイ在住時、どんなときにもユーモアと笑顔を忘れず、明るく前向きで、しかも他人にはとことん優しい人々に囲まれて毎日とても幸せだった。住むうちにどんどんタイの人々や気候風土が好きになり、この国をもっと深く知りたくて、様々な小説を読んだ。子どもの頃から小説をたくさん読んできた私は、世の中には小説でしか表現できないことがあると信じている。そんなときジェーン氏のこの作品に出会った。毎日辞書を片手にページをめくるのが楽しく、また感動に胸が震えるのを抑えられなかった。そして次第にこの作品を自分で翻訳し、広く日本の人々にも読んでもらいたいと願うようになる。実はこのとき私は、乳がんを患っており、海外での孤独な治療の日々もこの作品によってずいぶん励まされた。
ところでタイは海外旅行者、駐在者にとても人気がある。年中暑くて気持ちがいい。そしてそれによってもたらされるふんだんな美味しい食べ物、だからこそのんきで気さくなホスピタリティにあふれたタイの人々。そのどれもがタイの魅力となり訪れる私たちの心をとらえる。
「824」でも、一貫して流れているのは、この、何があっても大丈夫、なんとかなるさ(タイ人はタイ語で大丈夫という意味の、マイペンライという言葉をよく口にする)というタイの人々の穏やかなあたたかさだ。
著者のジェーン氏は、生まれつき手足に不自由があり車椅子生活だが、海外で英語を学び、タイに帰国した後、翻訳エージェントを設立。自らも翻訳者として「ハリーポッター」のタイ語版をヒットさせた。「824」を読み感動した私が、是非とも面会をしたいと申し出、感想を述べたとき、ご自宅でジェーン氏は「私は自分自身が自由に動けないので、その分、とてもよく周囲の人々を観察しているのかもしれません。公園などで行き過ぎる人を眺めながら、その人生の背景を思い描くこともしょっちゅうあるんですよ」と笑顔で答えてくれた。
ジェーン氏の優しいまなざしに見守れられリードされ、登場人物は「824」の中でいきいきとそれぞれの人生を生きる。
どんなときにもくじけず、笑顔でいること。まっすぐ日々に向き合うこと。愛する気持ちを大切にすること。時間が明るい明日を連れて来てくれること。それを胸に今日も歩こう。
さぁ、新しい明日が始まる。
この小説が、読んでくださったひとりひとりの、かけがえのない人生をさらに輝かせる一助になることを祈ってやまない。
【著者】
Jane Vejjajiva/1963年1月27日 ロンドン生まれ)、タイの第27代首相アピシット・ウェーチャチーワ前首相(2008年~2011年)の実姉
略歴 : 3歳までロンドンで過ごしバンコクに戻る。タイのタマサート大学でフランス文学の学士号を取得後、ブリュッセルに留学し、英語の翻訳と通訳を学ぶ。生まれたときから脳性麻痺を患い、現在なお車椅子生活を余儀なくされている。
帰国後、著作権代理店を経営する他、自らも、『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』などのタイ語翻訳を行う。また、小説家としても活躍し、代表作『カティの幸福』は、9言語に翻訳され、映画もヒットするなどタイの国民に広く親しまれている。1999年に芸術文化勲章シュヴァリエ、2006年に東南アジア文学賞を受賞。
【訳者】
蛭川 薫(ひるかわ かおる)/札幌市生まれ
略歴 : 広告代理店勤務後、単身渡米。帰国後、フリーライターとして、各企業のパンフレット、PR誌等のライティングを数多く手がける。またバックパックを背負い、世界各国を旅し、
旅行記なども執筆。台湾・タイに通算10年間暮らし、異国の文化を身近に触れる。
帰国後はフリーライターの傍ら、福祉職、事務職、海外における販売アシスタントなど
を行う。
著書 : 『旅のおくりもの ムハマド君とナムナマ』/1991年、砂書房(著者:高橋 薫)
【表紙イラスト&デザイン】
山岡真弓