静岡大学と岡山大学、理化学研究所の共同研究プレスリリースです


<研究のポイント>
・酸素発生型光合成の初期過程である光捕集に関与するフィコビリソーム(PBS)は、太陽光を捕集し、光化学系タンパク質に伝達します。
・本研究は、鉄欠乏環境で培養されたシアノバクテリアから、光化学系I複合体(PSI)にPBSが結合した超複合体を精製することに成功しました。
・鉄欠乏条件によりPBSとPSIが強固に結合することを見出しました。


◆概 要
 静岡大学農学部の長尾遼准教授の研究グループは、岡山大学の沈建仁教授、理化学研究所の堂前直ユニットリーダーらと共に、鉄欠乏条件下で培養したシアノバクテリアAnabaena sp. PCC 7120(以下、アナベナ)から、PSIにPBSが結合した、PSI単量体-PBSとPSI二量体-PBSの二種類の超複合体を精製し、それらの分子特性を明らかにしました。

 鉄が添加された通常培養条件では、PSI-PBS超複合体の精製が困難であり、これは両者の相互作用が弱いためだと考えられます。本研究により、鉄欠乏環境によってPBSとPSIの強固な結合が誘導されることを初めて見出しました。

 PBSはほぼすべてのシアノバクテリアに備わっており、太陽光獲得に貢献します。本研究で発見した鉄欠乏誘導によるPBSとPSIの相互作用強化は、多くのシアノバクテリアに備わっているのか、もしくはアナベナに特有なのか、現時点では不明です。このような栄養飢餓によって誘導する未知の分子機構の解明は、光合成生物の光捕集の適応機構に迫る研究へとつながることが期待されます。

 なお、本研究成果は、2023年6月30日  に、エルゼビアの発行する国際雑誌「Biochimica et Biophysica Acta - Bioenergetics」に掲載されました。


◆静岡大学農学部の長尾遼准教授のコメント
 光合成に関与するタンパク質の特性を理解するためには、細胞から抽出して精製する必要があります。PBSはとても不安定なタンパク質であり、細胞を破壊することでバラバラになってしまいます。今回、鉄欠乏という特殊な条件でアナベナを培養することで、PBSとPSIが強固に結合することを偶然発見しました。これまでの常識だけを信じて研究していたら、決して発見することのない希少な現象と出会うことができました。


◆論文情報
 掲載誌名: Biochimica et Biophysica Acta - Bioenergetics
 論文タイトル: Tight association of CpcL with photosystem I in Anabaena sp. PCC 7120 grown under iron-deficient conditions
 著 者: Shota Shimizu, Haruya Ogawa, Naoki Tsuboshita, Takehiro Suzuki, Koji Kato, Yoshiki Nakajima, Naoshi Dohmae, Jian-Ren Shen, Ryo Nagao
 DOI: https://doi.org/10.1016/j.bbabio.2023.148993


◆詳しい研究内容について
 鉄欠乏条件で誘導するフィコビリソームと光化学系I複合体の強固な結合
 https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press_r5/press20230703-1.pdf


◆参 考
・静岡大学農学部(長尾遼准教授)
 https://linktr.ee/ryonag
・岡山大学異分野基礎科学研究所(RIIS)
 http://www.riis.okayama-u.ac.jp/


◆参考情報
・【岡山大学】「強すぎる光」に対する藻類の生存戦略を解明! 強光を受けた際の有用藻類ユーグレナの光エネルギー利用機構を明らかに
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000104.000072793.html
・【岡山大学】光捕集複合体フィコビリソームの単粒子構造解析 -藻類の太陽光エネルギーを吸収するタンパク質構造を解明-
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000119.000072793.html
・【岡山大学】窒素固定を行うアナベナヘテロシストの光捕集機構を解明 ~窒素肥料依存による環境負荷の低減につながる発見~
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000353.000072793.html
・【岡山大学】光合成真核生物で初の光化学系I複合体の多量体構造を解明~原核生物から真核生物への進化を解明する糸口に~
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000620.000072793.html
・【岡山大学】珪藻の光化学系II-集光性色素タンパク質超分子複合体の立体構造解明 ~集光性色素タンパク質の進化を紐解く糸口に~
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000629.000072793.html
・【岡山大学】始原的なシアノバクテリアの光化学系I複合体の立体構造を解明 ~光合成生物の進化を紐解くきっかけに~
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000640.000072793.html
・【岡山大学】シアノバクテリアの光化学系I単量体IsiA超複合体の立体構造解明 ~集光性色素タンパク質の進化を紐解く契機に~
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001263.000072793.html


◆本件お問い合わせ先
<研究に関すること>
 静岡大学農学部 准教授 長尾遼(ながおりょう)
 TEL :
 WEBサイトやSNSのリンクのまとめ: https://linktr.ee/ryonag

<報道に関すること>
 静岡大学 広報・基金課
 TEL :

 岡山大学 総務・企画部 広報課
 TEL :

 理化学研究所 広報室 報道担当
 TEL :   

<岡山大学の産学官連携などに関するお問い合わせ先>
 岡山大学研究推進機構 産学官連携本部
 〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中1-1-1 岡山大学津島キャンパス 本部棟1階
 TEL:
 E-mail:sangaku◎okayama-u.ac.jp
 https://www.orsd.okayama-u.ac.jp/

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