いじめや不登校、教師や学校の不祥事など——問題が山積する日本の教育現場。そんななか、「子どもたちの人生の選択肢を広げ学ぶ力を鍛える」ことをコンセプトとした、日本初の子ども向け法教育スクール「こども六法スクール」が2021年5月 に開校しました。
東京都における教育改革を推進してきた鈴木あきひろ先生にとっては非常に興味深い施設です。そこで今回は、同スクールの代表であり、子ども向けの法律本として話題になった『こども六法』の著者でもある山崎聡一郎と、日本の教育について対談を行いました。
いじめ被害体験から生まれた『こども六法』
鈴木:『こども六法』は子ども向けの本とは言いながら、大人が読んでも大変学ぶところの多い、読みやすい法律の本です。この原点となるのは、「いじめを解決したい」という想いだということで。
山崎:私自身、小学校の頃にいじめの被害に遭っていました。その後中学生になり、たまたま学校の図書館で六法全書を開く機会があって。そこではじめて「そうか、自分が受けていたいじめは、犯罪だったのか」と知りました。
また、侮辱罪や名誉毀損罪が、被害者が告訴しないと罪に問われない親告罪であることも衝撃でしたね。いじめを受けていても、「これは犯罪だから助けてください」と言わなければ大人に助けてもらえなかったのかと……
その後、大学に進んでいじめの研究をしたいと思ったときに法教育の取り組みを知ります。これを合わせて活動することが、いじめ問題の解決に近づくのでは? と考えたのが、『こども六法』を作るきっかけです。
鈴木:本の構成にも山崎さんの想いが感じられます。第一章は「刑法」からなんですよね?
山崎:日本国憲法って、実は小学校ですでに習うもの。いじめの被害にあったときには知っているはずです。ただ、そこには「なぜいじめの加害者は逮捕されないのだろう?」の答えは載っていない。自分としては「なんて意味のない法律なんだ」というのが、初めて読んだときの実感でした。
だからこそ、いじめの被害に悩んでいる子どもたちには、加害に対する刑罰を知ってもらい、助けてもらえることを教えるのが先なんです。その考えから、『こども六法』では刑法を第一章に入れています。
鈴木:「いじめは犯罪で、こうした罪に問われる可能性がある」ということを加害者へ伝える意味もあると感じました。ただ、きちんと最後のほうには日本憲法にも触れられています。
山崎:日本国憲法のメッセージを正しく伝えるには、人権を守るための具体的な仕組みが法律で決められていることを、はじめに伝える必要があります。ただ、刑法はある意味その人権を守るために人権侵害をするという矛盾を抱えた制度で、慎重に扱わなくてはならない。そこで、刑事訴訟法などがどのような仕組みなのか具体的に伝えていき、その法律のボスとして日本国憲法がある、という見せ方にしたかったんです。
法や政治へ興味を持つきっかけづくりとして
鈴木:法律は難しい内容も多いですが、『こども六法』では「皆さんの行為を法に照らすとこうなります」というシンプルさが、今までにないと感じています。
山崎:それでいて、法学部の授業でも一応は使えるように作られているのが『こども六法』の特徴です。こうした懐の深さは、法律に立脚していないとできませんでした。それは、オリジナルな立場だなと思います。
鈴木:「問題解決のために法律を使う」という山崎さんの視点は、とても政治的であるとも感じます。たとえば、私たち地方議員の使命は「住民サービスを向上し、より良い社会を築くこと」だと思っています。だからこそ、法律や条令を盾にとって「できません」と言うのではなく、「できるよう改善してほしい」と提案するのが、私たちの立場なんですね。
山崎:おっしゃる通りです。ただ、そうした政治家の先生方の活動を後押しするのは、国民の興味関心。具体的な行動で言えば、投票はそのひとつです。『こども六法』が、政治への興味を喚起するきっかけになればいいなと思っています。
鈴木:政治へ興味関心が向かない——つまりは国民の無関心というのは、ある意味大きな社会問題だと思いますね。私はかつて、アフリカのスーダンへ国連のボランティアとして派遣された経験があります。何か社会の役に立ちたいという想いのもと、志願をしました。一方、当時のスーダンのことを知る日本人というのは本当に少なく、なぜここまで無関心でいられるのかとも感じてしまいました。そうした想いが、議員になる原点であったように思っています。
都に求められているいじめ問題への対応
鈴木:東京都議会では現在、社会的養護を議題として扱っています。たとえば、児童虐待の事例は各児童相談所に年間で2〜3万件にものぼります。ここで大きな問題になっているのが、子ども自身の意見表明権が担保されていないという事実です。
実際に私も一時保護所などに訪問し、子どもたちから話を聞きました。そして、彼らの悲痛な叫びを行政がしっかり受け止められなかったことが、最悪な事例を招いているのだと感じました。
日本では国連による「子どもの権利条約」が批准されていますが、国内法との相違が多く、現場での運用が困難な状況が続いています。この制度を変えるべく、東京都では子どもの意見表明権をしっかり担保できる条例の制定などを進めています。
山崎さんが考える「いじめの解決」も、原点は一緒だと思いますがいかがでしょうか?
山崎:そうですね。たとえば「いじめ防止対策推進法」は、それまで教員の方々の所感に頼っていたいじめの判断を「被害者が嫌だと思ったら全部いじめとして扱う」に変えました。そのほかにも、大阪の寝屋川市では市議会で、子どもを守るために独自の条例が作られています。このように、国より一歩進んだ対応に努める自治体が登場するのは、地域レベルで子どもを助けていくという意味で非常に大事だと思います。
鈴木:学校側の隠蔽体質を含む教育現場、そして教育委員会の改革も必要です。「いじめを解決できない教育力」を教師や学校側へ問う因習が教育委員会にはあるそうで、これを教師や学校が受け入れられないと問題が長期化。その間に子どもはより多くの被害を受けて、最悪のケースに至ることも少なくありません。
ただ、教育委員会は行政の執行機関とは独立した団体であり、監査制度はあるものの、なかなか改革は難しいというのも実情です。今後、より大きな課題になると思っています。
山崎:教育力の問題については、「専門性に対するリスペクトが足りていない」という日本人全体の問題につながる気がします。そもそも学校の先生は、学校運営のスペシャリスト。学校の安全確保や授業組み立て、子どもの統率の専門家です。一方、暴力や窃盗が行った場合の対応は警察の範疇ですよね? 法律問題が起これば弁護士です。しかし、今の先生にはこうした異なる専門性も求められてしまう。「自分の専門外のところは、別の専門家に頼る」という感覚が普通となる社会を成立させることが大切ですよね。
他者への関心が、社会の多様性を育む
鈴木:家庭教育も、実は同じような問題を孕んでいます。未だに「子どもは家族だけで育てるもの」というような認識が消えません。もちろん、家庭教育は大事ですし、尊重することは前提。一方で、地域社会で子どもを「宝」のように考え、支え合いながら育てていく社会が必要だと私は考えています。
山崎:他人の子どもというのは、基本的に「もっとも関係のない他人」ですからね。そもそも、今の大人は自分のことでいっぱいいっぱい。自分ファーストな状態です。これを変えるには、他者への支援や投資というのが、巡り巡って自分に還ってくるという意識を社会全体で高めることが大切です。
鈴木:今後、多様性を尊重する社会を作るには、寛容な社会が必要です。これは、世界的に取り組みが加速しているSDGsにもつながる考え方ですよね。そのなかにある「誰一人取り残さない」という内容の原点は、感心を持つことだと私は思います。その意識をベースにしながら、これからの地方行政を変えていきたいです。
対談動画
鈴木あきひろプロフィール
https://go2senkyo.com/seijika/25283
東京都における教育改革を推進してきた鈴木あきひろ先生にとっては非常に興味深い施設です。そこで今回は、同スクールの代表であり、子ども向けの法律本として話題になった『こども六法』の著者でもある山崎聡一郎と、日本の教育について対談を行いました。
いじめ被害体験から生まれた『こども六法』
鈴木:『こども六法』は子ども向けの本とは言いながら、大人が読んでも大変学ぶところの多い、読みやすい法律の本です。この原点となるのは、「いじめを解決したい」という想いだということで。
山崎:私自身、小学校の頃にいじめの被害に遭っていました。その後中学生になり、たまたま学校の図書館で六法全書を開く機会があって。そこではじめて「そうか、自分が受けていたいじめは、犯罪だったのか」と知りました。
また、侮辱罪や名誉毀損罪が、被害者が告訴しないと罪に問われない親告罪であることも衝撃でしたね。いじめを受けていても、「これは犯罪だから助けてください」と言わなければ大人に助けてもらえなかったのかと……
その後、大学に進んでいじめの研究をしたいと思ったときに法教育の取り組みを知ります。これを合わせて活動することが、いじめ問題の解決に近づくのでは? と考えたのが、『こども六法』を作るきっかけです。
鈴木:本の構成にも山崎さんの想いが感じられます。第一章は「刑法」からなんですよね?
山崎:日本国憲法って、実は小学校ですでに習うもの。いじめの被害にあったときには知っているはずです。ただ、そこには「なぜいじめの加害者は逮捕されないのだろう?」の答えは載っていない。自分としては「なんて意味のない法律なんだ」というのが、初めて読んだときの実感でした。
だからこそ、いじめの被害に悩んでいる子どもたちには、加害に対する刑罰を知ってもらい、助けてもらえることを教えるのが先なんです。その考えから、『こども六法』では刑法を第一章に入れています。
鈴木:「いじめは犯罪で、こうした罪に問われる可能性がある」ということを加害者へ伝える意味もあると感じました。ただ、きちんと最後のほうには日本憲法にも触れられています。
山崎:日本国憲法のメッセージを正しく伝えるには、人権を守るための具体的な仕組みが法律で決められていることを、はじめに伝える必要があります。ただ、刑法はある意味その人権を守るために人権侵害をするという矛盾を抱えた制度で、慎重に扱わなくてはならない。そこで、刑事訴訟法などがどのような仕組みなのか具体的に伝えていき、その法律のボスとして日本国憲法がある、という見せ方にしたかったんです。
法や政治へ興味を持つきっかけづくりとして
鈴木:法律は難しい内容も多いですが、『こども六法』では「皆さんの行為を法に照らすとこうなります」というシンプルさが、今までにないと感じています。
山崎:それでいて、法学部の授業でも一応は使えるように作られているのが『こども六法』の特徴です。こうした懐の深さは、法律に立脚していないとできませんでした。それは、オリジナルな立場だなと思います。
鈴木:「問題解決のために法律を使う」という山崎さんの視点は、とても政治的であるとも感じます。たとえば、私たち地方議員の使命は「住民サービスを向上し、より良い社会を築くこと」だと思っています。だからこそ、法律や条令を盾にとって「できません」と言うのではなく、「できるよう改善してほしい」と提案するのが、私たちの立場なんですね。
山崎:おっしゃる通りです。ただ、そうした政治家の先生方の活動を後押しするのは、国民の興味関心。具体的な行動で言えば、投票はそのひとつです。『こども六法』が、政治への興味を喚起するきっかけになればいいなと思っています。
鈴木:政治へ興味関心が向かない——つまりは国民の無関心というのは、ある意味大きな社会問題だと思いますね。私はかつて、アフリカのスーダンへ国連のボランティアとして派遣された経験があります。何か社会の役に立ちたいという想いのもと、志願をしました。一方、当時のスーダンのことを知る日本人というのは本当に少なく、なぜここまで無関心でいられるのかとも感じてしまいました。そうした想いが、議員になる原点であったように思っています。
都に求められているいじめ問題への対応
鈴木:東京都議会では現在、社会的養護を議題として扱っています。たとえば、児童虐待の事例は各児童相談所に年間で2〜3万件にものぼります。ここで大きな問題になっているのが、子ども自身の意見表明権が担保されていないという事実です。
実際に私も一時保護所などに訪問し、子どもたちから話を聞きました。そして、彼らの悲痛な叫びを行政がしっかり受け止められなかったことが、最悪な事例を招いているのだと感じました。
日本では国連による「子どもの権利条約」が批准されていますが、国内法との相違が多く、現場での運用が困難な状況が続いています。この制度を変えるべく、東京都では子どもの意見表明権をしっかり担保できる条例の制定などを進めています。
山崎さんが考える「いじめの解決」も、原点は一緒だと思いますがいかがでしょうか?
山崎:そうですね。たとえば「いじめ防止対策推進法」は、それまで教員の方々の所感に頼っていたいじめの判断を「被害者が嫌だと思ったら全部いじめとして扱う」に変えました。そのほかにも、大阪の寝屋川市では市議会で、子どもを守るために独自の条例が作られています。このように、国より一歩進んだ対応に努める自治体が登場するのは、地域レベルで子どもを助けていくという意味で非常に大事だと思います。
鈴木:学校側の隠蔽体質を含む教育現場、そして教育委員会の改革も必要です。「いじめを解決できない教育力」を教師や学校側へ問う因習が教育委員会にはあるそうで、これを教師や学校が受け入れられないと問題が長期化。その間に子どもはより多くの被害を受けて、最悪のケースに至ることも少なくありません。
ただ、教育委員会は行政の執行機関とは独立した団体であり、監査制度はあるものの、なかなか改革は難しいというのも実情です。今後、より大きな課題になると思っています。
山崎:教育力の問題については、「専門性に対するリスペクトが足りていない」という日本人全体の問題につながる気がします。そもそも学校の先生は、学校運営のスペシャリスト。学校の安全確保や授業組み立て、子どもの統率の専門家です。一方、暴力や窃盗が行った場合の対応は警察の範疇ですよね? 法律問題が起これば弁護士です。しかし、今の先生にはこうした異なる専門性も求められてしまう。「自分の専門外のところは、別の専門家に頼る」という感覚が普通となる社会を成立させることが大切ですよね。
他者への関心が、社会の多様性を育む
鈴木:家庭教育も、実は同じような問題を孕んでいます。未だに「子どもは家族だけで育てるもの」というような認識が消えません。もちろん、家庭教育は大事ですし、尊重することは前提。一方で、地域社会で子どもを「宝」のように考え、支え合いながら育てていく社会が必要だと私は考えています。
山崎:他人の子どもというのは、基本的に「もっとも関係のない他人」ですからね。そもそも、今の大人は自分のことでいっぱいいっぱい。自分ファーストな状態です。これを変えるには、他者への支援や投資というのが、巡り巡って自分に還ってくるという意識を社会全体で高めることが大切です。
鈴木:今後、多様性を尊重する社会を作るには、寛容な社会が必要です。これは、世界的に取り組みが加速しているSDGsにもつながる考え方ですよね。そのなかにある「誰一人取り残さない」という内容の原点は、感心を持つことだと私は思います。その意識をベースにしながら、これからの地方行政を変えていきたいです。
対談動画
鈴木あきひろプロフィール
https://go2senkyo.com/seijika/25283