プレスリリース
2012年5月24日
報道機関各位

学生と社会人が「社会問題」スタディツアーを運営する組織「リディラバ」、学生・社会人20人参加し「町工場ツアー」実施
大田区蒲田で中小零細企業の技術力、行政との連携を探る
「技術力に自信」「要求される超高精度にも十分対応」、町工場経営者の「匠のプライド」を見る
「技術の応用不足」「高い技術力発信が不足」など問題点と解決策を見いだす

■中小企業と行政のコミュニケーションンは必要■
スタディコミュニティ「リディラバ」(本部:東京都豊島区上池袋、代表:安部敏樹・東大大学院2年)は東大生を中心に学生・会社員約300人が、「社会問題」について事前勉強をしっかり行った上で、現場を訪れ、地元民、行政、企業などステークホルダーと、問題点の発掘と解決策の模索を目指すスタディツアーを運営している任意団体(設立2009年)です。現在まで農業や地方医療、ダムなど40件以上のツアーを行なってきました。

今回は「製造業が現在、日本のGDPの2割を占めており、町工場はその下支えとして現在も活躍している。しかし、経営悪化による廃業が続けば、技術集積のバランスが崩れ、高付加価値製品を作れなくなり、将来、日本の衰退を招くことになる」という問題意識を共有した上で、4月30日(月)  、東京都大田区に存在する町工場集積地域を訪ねました。

中小零細企業が抱える高い技術力確保・事業継承問題、今後の経営見通しなどについて検証し、「高付加価値製品や独自の技術を守るための行政による産業支援」に着目し、企業と大田区の産業支援との関係を探るために「スタディツアー」を実施しました。ツアーリーダー成田愛莉さん(専修大学3年)の引率で、学生15人、社会人5人、合計20人の若者が参加しました。

リーマンショック、国内企業の海外流出、円高などで町工場の閉鎖が続く都内大田区地域でも、「技術ではどこにも負けない」「顧客から要求される超高精度製品の製造要請にも十分対応できる」「大田区からの優工場認定のおかげで他社と差別化できる」「情報化が進んでも、良いものを作れるウチらの需要は無くならない」など経営者の積極発言に、若者たちは技術と共に生きる「匠(たくみ)のプライド」を感じ取ることができました。

ただ、訪問先の企業の中には、今後の見通しはよくわからないと経営に不安を感じる方もあり、日本経済をとりまく不況の中で生き延びるために懸命の努力をしている町工場の厳しさを感じました。

■最新技術に頼らず伝統的な「匠の技術」でも対応する■
東京都大田区は「西の東大阪、東の大田区」と言われ、町工場が集中する有名な地域です。直木賞受賞作「下町ロケット」の舞台でもあり、また4月から始まったNHKドラマ「梅ちゃん先生」の舞台として注目を集めています。普段は個人で見学をすることは難しいのですが、今回は催行1週間前に町工場に関する基本的な知識を学ぶための勉強会を行った上で、3つの町工場を訪問し、4人の関係者の方から自社の経営状況や大田区産業支援の関わりなどについて話を聞きました。

参加した若者たちはツアーを通じて、同地域の中小企業は以下の問題を抱えていると認識しました。
① 技術を商品に結びつける余地がまだあるが、情報を仕入れるのに難儀している。
② 高い技術力を持っているにも関わらず、情報発信力が不足している。潜在的な顧客もしくは製品製造者である一般の人向けの広報力が足りない。
③ 技術後継者の不足。町工場は従業者1人~19人の工場が全体の90%を占めるため、慢性的な人手不足に悩まされている。1つの機械をマスターするまでには、半年~3年かかるといわれており、工場内のすべての機械を使えるようになるには10年以上かかり、技術の習得には時間がかかる。また、若い従業者がいない町工場は、技術の継承がされず、技術の喪失へと直結する。

その解決法として、次の方法を考え出しました。
① 町工場の技術や行政の制度について深く理解し、行政などによる支援制度を利用しながら、技術をどう利用すれば製品に結びつけられるかーを考えることのできる「コーディネーター」を養成する。
② フェイスブック、ツイッターなどSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を情報のプラットホームとして利用して自社製品のPRを行いつつ、他社とのコミュニケーションを図っていくための仕組みを作る。また、YouTubeで実際の作業工程および実際の部品を映して、社員がその精度の高さを解説したり、工場で部品を作成している様子を配信したりするなど、まず一般人に対して認知度を上げ、その後取引先を増やす努力が求められる。町工場は地域に密接した経営を行なっている会社が多いので、地域単位での技術営業の養成が必要である。
③ 町工場と行政が協力して工業高校と町工場とのインターンシップ制度を取り、若者の就業に力を入れていく。

総括として「今後とも町工場と行政とのコミュニケーションが必要であるが、一般人も積極的に地域に根ざした中小企業に関われる形を模索する必要がある」と締めくくりました。

訪問した各社の特徴は下記の通りです。
■株式会社タシロイーエル; ロケットや飛行機に使われる超高精度が要求される金属部品を加工・製造している町工場。技術力は折り紙つきで、まさに「下町ロケット」で描かれていた世界が広がっていました。
■シナノ産業株式会社; 他社の図面を基にプラスチック製品の設計・加工・製造している町工場。独自のキャラクラー、シナノちゃんを作成するなど一般向けの製品も開発中。人材の積極的な雇用など行なっており、企業のイメージアップにも懸命に取り組んでいました。
■ホワイトテクニカ; オリンピック競技用ボブスレーに使用する高精度の金属加工製品の製造を請負っている町工場。また、被災地復興のための「土嚢スタンド」などのアイディア製品の考案および作成も行なっています。
■藤重プラスチック工業株式会社の代表取締役・藤重元信氏; 大田区中小企業団体「工和会」を取りまとめ、町工場全体について問題意識が高いことで有名な、頼りがいのある会長。数々の業界関係者やメディアが訪れます。ワークショップの後、話を伺いました。
■大田観光協会事務局長・栗原祐三氏

≪ツアーマネージャー・渡辺麻朝(東大院2年)の町工場ツアー報告≫
●株式会社タシロイーエル(田代信雄社長、大田区南六郷) 
ロケットや精密機械に使用される金属部品の加工を行っている株式会社タシロイーエルは、加工・製造できる製品の多さや加工精度の高さ(誤差+-200分の1ミリ、大体髪の毛一本分の10分の1の細さ)から「大田区優工場」に指定されました。ロケットに使われる部品や高い精度が要求される製品を少量生産して供給しているそうです。現在は金属加工のほとんどが「NC旋盤」という、プログラムを打ち込むと機械のアームが自動的に切削加工を行う最新の工作機械を用いています。ただ、データを打ち込む際に金属の材質、切削温度条件など細かい数値については、非常に細かい条件設定する必要があり、同社は「昔から使ってきた機械旋盤を用いた加工経験で得てきた、独自に持つ金属加工の詳しいレシピを用いることで、精度の高い製品を生み出すことができる。これで他社に対する技術的優位を保っている」と話していました。

担当と参加者の間で下記の質疑応答がありました。
≪質問≫
①どのようにして取引先を開拓しているか。
②会社の生命線と言える「技術優位」をどのようにして保っているのか、また今後、技術継承は保っていけるか。
③資金面を始めとして、行政の助けをどれだけ借りているか。
≪答え≫
① 技術力の高さについては、
「創業80年の中でお墨付きを頂くことができたので、取引先の減少は感じていない。口コミなどで取引は自然と生まれてくる」「ただ、今後は、どうなるかわからないので、積極的な営業をする必要性は感じている」「新規営業開拓に関しては、付近の町工場も同様の問題意識を共有して、技術を理解し、積極的な売り込みをかけるための組織を作っていきたい」―と話していました。
② 技術優位の維持に関しては、
「最新機器を用いても金属加工に関しては、創業以来80年かけて築きあげた金属加工の繊細な条件設定や切削技術が必要であり、一朝一夕では他社がキャッチアップできるものではない」―と話していました。また、最新機器であるNC旋盤では作ることのできない超高精度が要求されることもあり、または特殊な図面を基に作製をする必要のある製品も存在します。技術に関しては昔から使われてきた工作機械を用いて作製している製品、いわゆる「匠の技」でしかできないものもいまだにあり、同社では最新のNC旋盤のみならず、昔から使われてきた旋盤の習熟も従業員に課しているそうです。
③ 行政の支援に関しては、
東京都大田区で優れた技術をもつ町工場を区が選定する「優工場」という制度があり、製品の品質アピールに役に立っているとのことです。あとは、大田区で年に数回開催されている技術博覧会「大田工業フェア」に出展することで、他社にアピールする機会を得ており、「技術力や製品アピールをする機会をいただけるという意味で、大田区の支援にはお世話になっている」と話していました。

町工場見学終了後、大田区区民プラザ会議室で参加者を3グループに分け、事前勉強会や実際の町工場見学を通じて感じた、下記の問題点について考え、解決策について議論し発表会を開きました。

【問題点1】=「技術の応用ができていない」
町工場の技術を組み合わせて新しい製品を開発していくことに加え、デザイナーなど町工場以外の一般人も巻き込んで新しい製品を産み出すといった「町工場の技術を広く利用し製品製造に持っていくための工夫」に余地がある。
【解決策】=町工場、行政支援者などの立場だけでなく、双方距離を保ちながら、町工場の技術の製品への応用や行政の制度の上手な利用の仕方について深く考え、経営者に代わって製品を売り込みに行くことのできる「コーディネーター」の存在が必要である。

【問題点2】=「高い技術力を持っているにも関わらず発信力が不足している」
従来の町工場の垂直統合モデル型、企業取引ではなく、企業間で製品を製造したり、技術一般向けに製品を作ったりすることが必要になる。
【解決策】=フェイスブック、ツイッターなどSNSのネットの力を利用。フェイスブックやツイッターなど情報を一瞬で世界に拡散できる媒体を使い、「φ3μmの穴あけならA工業にお任せあれ」といった技術情報を発信し、世界的な領域で取引先を増やすためのアピールをする。さらに、一般人の意見も聞くことで、製品を改良できるチャンスが生まれる(サブカル系やPCケース、雑貨なども大田区の技術力をもってすれば質の高い製品がいくらでもできる)。さらに「設計図を投げ込めば、次の日には製品になって返ってくる」という大田区町工場の技術水準の高さを地域振興のアピール材料の一つ、つまり「産業の町」東京都大田区として、ネットで世界に発信すれば、地域単位で全世界から受注がくるのではないかと考えた。

【問題点3】=「一般の人向けの広報力の不足」
町工場が住宅と溶け込みすぎていて、改めて工場見学するなどの機会を設けない限り、町工場が何をしているのか、そもそも町工場がどこにあるのかを知る機会がない。議論の経過において「大手メーカーとの取引しかない町工場が一般向けにアピールをする必要があるのか」という意見も出たが、「一般認知を上げれば、多くの方に中小企業政策の重要性を理解してもらえ、融資などの政策に反映されやすくなる。また、タシロイーエルで、営業活動ができていない企業が大田区には多いと聞いたことで、一般人≒潜在雇用者という観点を持つことで、経営に忙しく、なかなか手が回らない営業や新規製品の開発者の募集を行うことができる。また、一般からの声を製品に反映させやすくすることもできるのではないか」ということになりました。
【解決策】=YouTubeで各社の実際の製品作製工程および部品を映して、その精度の高さを社員に解説してもらったり、工場で部品を作製している様子を配信したりして、まず一般認知度を上げる必要があることを指摘していました。

総括として大田区工業系中小企業を取り仕切る団体「工和会」の現会長である藤重氏にツアーの総括をしてもらいました。その中で印象に残っていたのが「みんな主導」という言葉で、官僚や政治だけで物事を動かしていくのではなく、企業や一般の人たち「みんな」で物事を動かしていくための仕組み作りを早急に進めるべきだという熱いメッセージをいただきました。

■スタディコミュニティ「リディラバ」について
私達の目的はー
① 社会の問題を認識し行動を起こす場所を作る
② 社会を変える原動力となるイノベーションやアイディアを生む場所を作る
③ 想いを現実にしていく人間を輩出するーことです。
2009年、現代表・安部敏樹が設立。リディラバとはRidiculous Things Lover(ばかばかしいものを愛する者たち)の和製造語英語。
会員:300人(学生250人、社会人50人)
本部:東京都豊島区上池袋1-17-17-201
◎HP    http://ridilover.sakura.ne.jp/index.htm
◎Twitter @ridilover  https://twitter.com/ridilover
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【内容・取材についてのお問い合わせは直接、下記までお願いします】
スタディコミュニティ「リディラバ」
代表:安部敏樹/E-mail: 携帯電話
広報担当:平井一樹/E-mail:携帯090-9344-9239



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