<発表のポイント>
・細胞内局在に着目したホウ素製剤の開発により、従来必要と考えられてきたホウ素送達量よりもはるかに少ない量で細胞死を誘導できうることがシミュレーション解析で判明しました。
・細胞内動態を考慮したホウ素製剤の開発により、従来の目標値にとらわれることのない開発が可能となり、新たなホウ素製剤の社会導出が加速することが期待されます。


◆概 要
 ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)とは、ホウ素中性子捕捉反応を用いて癌細胞を細胞レベルで選択的に破壊する放射線治療法です。現在、日本で承認されているBPA-BNCTシステムは「切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部癌」の治療に対してBoronophenylalanine(BPA)をホウ素製剤として使用しています。BNCTの適応拡大のためには、新たな分子背景を有するホウ素製剤の開発が必要ですが、安全性の懸念や不十分なホウ素送達量のため、BPAのように実臨床レベルにまで開発が進められているものはほとんどないのが現状です。

 今回、国立大学法人岡山大学(本部:岡山市北区、学長:那須保友)の大学院医歯薬学総合研究科(細胞生理学教室)修士課程2年の重平崇文院生と同大学学術研究院医歯薬学域(医)の藤村篤史助教、中性子医療研究センターの道上宏之准教授ら、岡山大学病院の西森久和助教と前田嘉信教授らの共同研究グループは、様々な細胞内小器官へホウ素が局所集積した場合の細胞核線量をPHITSによるマイクロドシメトリーで解析し、BPAと同等の線量が期待できるBPA等価線量濃度を推算しました。

 その結果、理想的なホウ素製剤の特性は核や核小体を標的とするものであり、そのような特徴を有するホウ素製剤が開発された場合、BNCTによる抗癌作用を誘導するのに必要なホウ素送達量を最大で約285倍まで低下させても良いことがわかりました。

 また、ホウ素製剤の局在によっては、必ずしも核内に送達されなくても十分な効果が見込めることも明らかにしました。

 このことは、細胞内局在に着目したホウ素製剤開発を行うことで、従来のホウ素製剤開発で癌組織への送達量の目標値とされてきた15〜40ppmといった濃度にとらわれる必要がないことを示唆しており、これまでになかった革新的なホウ素製剤の社会導出を強く後押しするものであると考えています。これにより、新たなホウ素製剤の開発とそれによるBNCTの治療効果向上と適応症例の拡大につながることが強く期待されます。

 本研究成果は、2023年4月28日  に国際科学誌「Advanced Theory and Simulations」のオンラインサイトに掲載されました。


◆重平崇文大学院生からひとこと
 所属研究室の先生方や秘書の方、中性子医療研究センターの先生方には日々大変お世話になり、感謝の念に堪えません。また、JAEAの放射線挙動解析研究グループの先生方には、PHITSの使用方法について丁寧にご指導いただきました。ここに厚く御礼申し上げます。
 本研究が今後のBNCTの発展に繋がれば幸いに思います。今回得られた知見をもとに、さらなる探求に取り組んで参りたいと思います。


◆論文情報
 論 文 名:Particle and Heavy Ion Transport Code System-Based Microdosimetry for the Development of Boron Agents for Boron Neutron Capture Therapy
 掲 載 紙:Advanced Theory and Simulations
 著  者:Takafumi Shigehira, Tadashi Hanafusa, Kazuyo Igawa ,Tomonari Kasai, Shuichi Furuya, Hisakazu Nishimori, Yoshinobu Maeda, Hiroyuki Michiue, Atsushi Fujimura
 D O I:10.1002/adts.202300163
 U R L:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/adts.202300163


◆研究資金
 本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(課題番号JP21K07730、研究代表:西森久和)のご支援を受けて実施しました。


◆詳しいプレスリリースについて
 BNCTの治療効果向上と適応拡大を可能にするホウ素製剤開発の新たなる指針をシミュレーション解析で検証
 https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press_r5/press20230510-1.pdf


◆参 考
・岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
 https://www.mdps.okayama-u.ac.jp/
・岡山大学中性子医療研究センター(NTRC)
 https://www.ntrc.okayama-u.ac.jp/
・岡山大学病院
 https://www.okayama-u.ac.jp/user/hospital/


◆参考情報
・【岡山大学】国際原子力機関(IAEA)の第66回総会でサイドイベント「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の進捗」を開催しました
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000946.000072793.html
・【岡山大学】岡山大学が国際原子力機関(IAEA)協働センターに指定
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000922.000072793.html
・国際原子力機関(IAEA)総会のサイドイベントでホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の現状を報告
 https://www.okayama-u.ac.jp/tp/news/news_id6103.html
・国際原子力機関 IAEAと新しいがん治療法に関する協定を締結
 https://www.okayama-u.ac.jp/tp/news/news_id6222.html
・国際原子力機関IAEAと協定調印のWeb会議を挙行 最新がん放射線治療法BNCTに関する協定を発展継続
 https://www.okayama-u.ac.jp/tp/news/news_id9471.html
・ワークショップ「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の研究・教育」を開催
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000849.000072793.html
・“ホウ素”と“ペプチド”でがんをやっつける!がん治療法・BNCTに利用可能なホウ素薬剤の高性能な新薬を開発
 https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id796.html


◆本件お問い合わせ先
 岡山大学 学術研究院 医歯薬学域(医)助教 藤村篤史
 〒700-8558 岡山県岡山市北区鹿田町2-5-1 岡山大学鹿田キャンパス
 TEL:
 FAX:

<岡山大学病院との連携等に関する件(製薬・医療機器企業関係者の方)>
 岡山大学病院 新医療研究開発センター
 〒700-8558 岡山県岡山市北区鹿田町2-5-1
 下記URLより該当する案件についてお問い合わせください
 http://shin-iryo.hospital.okayama-u.ac.jp/ph_company/

<岡山大学病院との連携等に関する件(医療関係者・研究者の方)>
 岡山大学病院 研究推進課 産学官連携推進担当
 〒700-8558 岡山県岡山市北区鹿田町2-5-1
 TEL:
 E-mail:ouh-csnw◎adm.okayama-u.ac.jp
 http://shin-iryo.hospital.okayama-u.ac.jp/medical/

<岡山大学の産学官連携などに関するお問い合わせ先>
 岡山大学研究推進機構 産学官連携本部
 〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中1-1-1 岡山大学津島キャンパス 本部棟1階
 TEL:
 E-mail:sangaku◎okayama-u.ac.jp
 https://www.orsd.okayama-u.ac.jp/

国立大学法人岡山大学は、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を支援しています。また、政府の第1回「ジャパンSDGsアワード」特別賞を受賞しています。地域中核・特色ある研究大学である岡山大学にご期待ください

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